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「カーサ・ガラリーナ」にお引っ越ししました


by galarina
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バーバー吉野

2003年/日本 監督/荻上直子

「つかみが強烈過ぎて」

バーバー吉野_c0076382_084610.jpg
「めがね」公開が楽しみな荻上直子監督のデビュー作。

その村の子供たちはみな「吉野刈り」なるおかっぱ頭にするのが古くからの習わし。しかし、茶髪の転校生がやってきて波紋を広げる。という話だが、これは慣習を打ち破るという類の話ではなく、小学6年生という多感な時期の男の子がある地点を通過して大人になる、という通過儀礼のお話なのだ。

まずこの作品は「吉野刈り」と言うアイデアの勝利。子供が大人の階段を上る…というテーマは山ほどあるけど、そのシンボルとしてこのアイデアを思いついた監督のセンスはとても面白いと思う。その思いつきの源は知るよしもないが、冒頭ハレルヤを歌う場面の子供たちを見て、私は「天使の輪っか」を思い出した。おかっぱ頭が日差しを受けるとつややかな黒髪が反射して天使の輪のように見えるのだ。つまり、吉野刈りは子供たちを天使(=純真無垢な存在)に見せてくれるものかな、と。

ストーリーとしては「吉野刈り」の理由は天狗が子供をさらっていくのを防ぐためだと言う。大人には子供を守る義務があるため、大人は子供たちに「吉野刈り」を強要する。しかし「もう吉野刈りにはしない!」と子供たちは宣言する。それは、僕たちはもう子供じゃない、あなたたちに守ってもらう必要なはいと宣言すること。「吉野刈り」を軸として考えれば、なかなかに面白い物語に見えるのに、実は鑑賞後やや煮え切らない感情が残る。

というのも、タイトルが「バーバー吉野」であり、もたいまさこが異常に(笑)存在感があるので、散髪屋そのものがもっと絡んでくるのかと思うのだけど、そうはならない。そこが私は物足りなかった。冒頭「吉野刈り」というきわめてインパクトの高いアイテムで引き込まれたものだから、以降子供たちと彼らを取り巻く大人たちの関係性がもう少し深く描けていたらなあと思う。

また、全体的に一本調子な作風で、本当はそれが持ち味になるはずなのに、却ってもたいまさこだけが浮いてしまう。ゆえに彼女の登場シーンには過大な期待をかけてしまって、肩すかしを食らうことが続いてしまう。田舎者(地元の子供)とよそ者(都会から来た子供)の関係性という構図に関しても、中途半端に大人が口出ししているだけに、もう少し物語として描き込んで欲しかったところ。まあデビュー作ということで、ツメの甘さが気になる部分も多いのだけど、奇抜なアイデアで個性的な作品を作り出す監督のセンスの良さは間違いないんだろう。
by galarina | 2007-09-11 23:09 | 映画(は行)