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「カーサ・ガラリーナ」にお引っ越ししました


by galarina
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華氏911

2004年/アメリカ 監督/マイケル・ムーア

「それでもブッシュは再選した」
華氏911_c0076382_16233184.jpg
「エンロン」や「不都合な真実」を見る前に、アメリカを復習しようと思って再見。

これだけのブッシュ批判の映画が選挙前に公開されて、しかもカンヌ映画祭のグランプリまで獲っているのに、それでもブッシュは再選。結局、この映画が反ブッシュのために作られたのなら、一番の目的は達成できなかったということ。目的が果たせなかったという観点から見れば失敗作。この映画の存在をせせら笑うかのようにブッシュが勝ってしまう、まさにその腐ったシステムをムーアは描くべきだった。(もしかして今それをやってるかも)

この映画によって、逆にブッシュに興味をもってしまった人間が出たかも知れないし、ブッシュ側の結束力が固まったかも知れない。この映画の存在そのものが、むしろブッシュのプロパガンダだと揶揄すらされた。まあ、問題作だからこそ様々な論評が出され、否定的な意見も多かったのは確か。

しかし、私はこの映画の存在を否定する気にはなれない。確かにこの映画にはムーアの悪意が満ちている。自らブッシュを小馬鹿にするようなアテレコを入れてるんだもん。そのお調子者ぶりが、知識人の方々には目に余るのも当然かと。でも、私のような小市民にしてみれば、悪意むきだしのムーアの人間臭さに共感することも多い。突撃取材をするというスタイルがそもそも「熱い人間」としての表れだし、そんな彼だからこそ、議員に「あなたの息子をイラクに送りませんか」とよびかけるシーンは十分我々に訴えるものをもった映像だったと思う。

前半部の、石油、パイプライン、武器製造にまつわる巨大な利益が生み出される構造は、驚きの連続でありながら、どんなに噛み砕いて説明されても、やはり遙か遠くの出来事のように感じる。それでも、そのシステム自体は以前に「シリアナ」を見ていたので、ずいぶん理解できるようになった。映画の力って偉大だな。

さて前半にどでかい話を持ってきて、一転して後半はそれらの莫大な利益は、結局は戦場に出向く一人ひとりの兵士の犠牲の上に成り立っているのだということを顕わにしていく。誰だって、息子を戦場に送りたくなどない。誰だって、息子を無駄死になどさせたくない。そんな人間としての真っ当な感情に訴えている。

方法は賢明ではなかったかも知れないが、思いは伝わる。だが、思いだけではシステムを変えることはできない。それもまた現実。そういう事実を知るだけでも、意義は大きい。富裕層を招いたパーティであなたたちは私の基盤ですと演説するブッシュと何のために息子はイラクで死んだかわからないと泣き崩れる両親。両者を1本の糸でつなげようとしたムーアの心意気は買いたい。
by galarina | 2007-06-21 23:06 | 映画(か行)