ゆれる
2006年 08月 02日
<梅田シネ・リーブルにて>
2006年/日本 監督/西川美和
「息を呑んでスクリーンを見つめる」
女のドロドロした粘着質な物語「ヴァイブレータ」を描いたのは、男性の廣木隆一監督だった。そして32歳の若手女性監督西川美和は、男の見栄や嫉妬をさらけ出し、兄弟の再生の物語を作った。女性の監督だから繊細な物語が撮れるとか、男性だからダイナミックにできるとか、そういった男性、女性という分類は、もはや全く関係ない。ようやくそういう段階に来たのだ、と非常に感慨深く思う。
それにしても、西川監督の人間描写には全く恐れ入る。人間の心の裏側、その裏側まで徹底して侵入し、そして暴き出す。その「やり口」は、文字通り他の監督にはできない「西川流」とでも言ったところだろうか。前作「蛇イチゴ」でもそのやり口は存分に発揮されていたが、「ゆれる」ではさらに磨きがかかっている。
「蛇イチゴ」で、家族の仮面をはぎ取る役割を担っていたのは、兄の宮迫博之だった。「ゆれる」では兄弟に愛される女智恵子と、木村裕一演じる検事が、兄弟間の確執をあぶり出す役割を担っている。そのじわりじわりとあぶり出される確執を観客は固唾を呑んで見守っている。その緊張感たるやすさまじい。こんなに穴が開くほどスクリーンを見続けたのは久しぶりだ。抑えた演出と鋭い人間描写、そして弟が橋の上で見たものは一体何だったのか、二転三転するストーリー展開。これが2作目とは本当に信じがたい。
東京で好きな道を歩みカメラマンとして華やかな世界で働く弟、そして実家を継いで親の面倒を見ている兄。このふたりの構図は兄弟という縛りを越えて、様々な人間関係に当てはめることができると思う。人間は誰だって100%善人ではないし、時には嘘をついたり、見栄を張ったりして生きている。その上できっと相手はこう思っているだろう、とか、この人はこんな人だというイメージ、思いこみがある。が、しかし、それが全く違っていた時の恐怖。人間関係でこれ以上の恐怖ってないんじゃないかな。
橋の上で智恵子が嫌悪の表情を浮かべて「触らないで!」と叫ぶシーンも心がざわざわした。拘置所でにいちゃんが弟に唾を吐きかけるシーンも。でも、この映画のすばらしいところは、その徹底的な破壊の向こうに兄弟の再生を描こうとしていること。人間なんて、所詮こんなもの、と悪態を付くことは結構簡単だと思う。そこから、いかに希望を見せることができるか、それこそが映画が為すべきことなのだ。
主演オダギリ・ジョーの魅力も全開。男のずるさ、成功した人間の傲慢さが暴かれていく様子を渾身の演技で見せてくれる。少しずつ兄に不信感を抱き、揺れに揺れる弟の心。我々観客も、彼と同じように揺れに揺れていた。「にーちゃーん!」と叫びながら兄を追いかけるラストでは、涙が止まらなかった。
そして、兄を演じる香川照之にも心からの拍手を。洗濯物をたたむ後ろ姿、拘置所で弟に悪態をつくシーン、そしてラストの微笑み。今でも次から次へと印象的なシーンが蘇る。とにかく表情がすばらしい。多くを語らずとも、無言の表情が全てを物語っていた。また、検事役の木村祐一の存在感もすばらしかった。あのいやらしい突っ込み方が、実に堂に入ってましたねえ。
さて、現在多くの方が絶賛されており、評判が評判を呼んでいるのか、夏休みとは言え、超満席。平日の15:30開始で映画の日でもレディースデーでもないのに、立ち見も出てた。年齢層も実に幅広く、この映画が多くの人に支持されているのを認識。非常に嬉しく感じた。
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2006年/日本 監督/西川美和
「息を呑んでスクリーンを見つめる」
女のドロドロした粘着質な物語「ヴァイブレータ」を描いたのは、男性の廣木隆一監督だった。そして32歳の若手女性監督西川美和は、男の見栄や嫉妬をさらけ出し、兄弟の再生の物語を作った。女性の監督だから繊細な物語が撮れるとか、男性だからダイナミックにできるとか、そういった男性、女性という分類は、もはや全く関係ない。ようやくそういう段階に来たのだ、と非常に感慨深く思う。
それにしても、西川監督の人間描写には全く恐れ入る。人間の心の裏側、その裏側まで徹底して侵入し、そして暴き出す。その「やり口」は、文字通り他の監督にはできない「西川流」とでも言ったところだろうか。前作「蛇イチゴ」でもそのやり口は存分に発揮されていたが、「ゆれる」ではさらに磨きがかかっている。
「蛇イチゴ」で、家族の仮面をはぎ取る役割を担っていたのは、兄の宮迫博之だった。「ゆれる」では兄弟に愛される女智恵子と、木村裕一演じる検事が、兄弟間の確執をあぶり出す役割を担っている。そのじわりじわりとあぶり出される確執を観客は固唾を呑んで見守っている。その緊張感たるやすさまじい。こんなに穴が開くほどスクリーンを見続けたのは久しぶりだ。抑えた演出と鋭い人間描写、そして弟が橋の上で見たものは一体何だったのか、二転三転するストーリー展開。これが2作目とは本当に信じがたい。
東京で好きな道を歩みカメラマンとして華やかな世界で働く弟、そして実家を継いで親の面倒を見ている兄。このふたりの構図は兄弟という縛りを越えて、様々な人間関係に当てはめることができると思う。人間は誰だって100%善人ではないし、時には嘘をついたり、見栄を張ったりして生きている。その上できっと相手はこう思っているだろう、とか、この人はこんな人だというイメージ、思いこみがある。が、しかし、それが全く違っていた時の恐怖。人間関係でこれ以上の恐怖ってないんじゃないかな。
橋の上で智恵子が嫌悪の表情を浮かべて「触らないで!」と叫ぶシーンも心がざわざわした。拘置所でにいちゃんが弟に唾を吐きかけるシーンも。でも、この映画のすばらしいところは、その徹底的な破壊の向こうに兄弟の再生を描こうとしていること。人間なんて、所詮こんなもの、と悪態を付くことは結構簡単だと思う。そこから、いかに希望を見せることができるか、それこそが映画が為すべきことなのだ。
主演オダギリ・ジョーの魅力も全開。男のずるさ、成功した人間の傲慢さが暴かれていく様子を渾身の演技で見せてくれる。少しずつ兄に不信感を抱き、揺れに揺れる弟の心。我々観客も、彼と同じように揺れに揺れていた。「にーちゃーん!」と叫びながら兄を追いかけるラストでは、涙が止まらなかった。
そして、兄を演じる香川照之にも心からの拍手を。洗濯物をたたむ後ろ姿、拘置所で弟に悪態をつくシーン、そしてラストの微笑み。今でも次から次へと印象的なシーンが蘇る。とにかく表情がすばらしい。多くを語らずとも、無言の表情が全てを物語っていた。また、検事役の木村祐一の存在感もすばらしかった。あのいやらしい突っ込み方が、実に堂に入ってましたねえ。
さて、現在多くの方が絶賛されており、評判が評判を呼んでいるのか、夏休みとは言え、超満席。平日の15:30開始で映画の日でもレディースデーでもないのに、立ち見も出てた。年齢層も実に幅広く、この映画が多くの人に支持されているのを認識。非常に嬉しく感じた。
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by galarina
| 2006-08-02 23:56
| 映画(や行)