「カーサ・ガラリーナ」にお引っ越ししました


by galarina
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サラエボの花

2006年/ボスニア・ヘルツェゴビナ 監督/ヤスミラ・ジュバニッチ

「不器用な母と娘の踏み出した一歩」
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母エスマの背負った過去はあまりにもつらいから、彼女は自分の感情に蓋をすることが習慣になっている。そんな何かを隠しているような佇まいが娘を不安にさせる。身も心もずたずたにされた過去の傷をさらけ出さないと、親子としてわかりあえない。その事実が胸を撃つ。しかし、この作品は彼らが戦争のせいで不幸だと言う、短絡的な伝え方は決してしていない。血を分け合った親子だからこそ、互いの傷を分かち合い、理解し合えるのだと伝える。戦争がもたらした悲惨な境遇。放っておけばどんどん不幸と言う名のレールを走ってしまいかねない列車。そのレールの行く先が変わる瞬間を見事に描き出している。

娘の修学旅行のお金を納めるまでの、ほんの1週間ほどの期間の中で、母娘の絆はもちろん、戦争の傷跡、同じ境遇を乗り越えてきた仲間たちの思いやり、再び人を愛せるかも知れないという希望など、多様なメッセージが盛り込まれているのがすばらしい。女性的な視点に偏りすぎでは、と言う意見も見受けられるけれども、若い女性監督のデビュー作と言う点からすれば、むしろこれだけ生々しさを排除して、市井の人々の慎ましやかな暮らしと戦争の裏に隠された思いをじっくりと引き出していることは、凄いことだと素直に思う。

父の呪縛を振り払った娘がバスの中で同級生と共に歌い始めるラストシーンに温かい気持ちがこみ上げる。しかし一方、全てを話してしまったエスマを見るに、彼女はまたもう一つ重い十字架を背負ったような気もしてしまうのだ。不安と安堵の入り交じった表情で去りゆくバスに手を振るエスマ。母と娘の間に横たわる溝が埋まっても、彼らが手と手を取り合って乗り越えねばならない苦難は、きっとまだまだ続くのだと気づかされ、何とも言えない感傷的な気持ちになった。

エスマと言う女性が抱えるバックボーンは確かに特殊なんだけれども、自分の気持ちを素直に伝えることがとても不器用な母娘の物語としても十分に堪能できる作品だと思う。特に思春期の子供を持つ親なら、なおさら。鑑賞後に自分と子供の関係を見つめ直したくなる、そんな味わい深い逸品だと思う。
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by galarina | 2008-06-11 13:57 | 映画(さ行)