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「カーサ・ガラリーナ」にお引っ越ししました


by galarina
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クラッシュ

1996年/カナダ 監督/デビッド・クローネンバーグ

「ガチンコ変態映画」

クラッシュ_c0076382_21332090.jpg
1人で映画館に行くのは何とも思いませんが、これは初めて1人なのが恥ずかしいと思った作品。どんなセックスシーンが出てこようと受けて立つ私ですが、ここまで真の変態道を見せつけられると、たじろぎ、まごつくばかりです。

変態映画は面白いです。その変態っぷりに人間臭さやおかしみ、悲哀が感じられますから。フェチと言ってすぐに思い浮かべるのはブニュエルの「小間使いの日記」の靴フェチです。靴にほおずりする中年男は、私も理解できます。恐らくSMに根ざした変態道は、それらに足を踏み入れたことのない人間でも、ある程度の想像は付くのだろうと思います。なぜなら、SM的人間関係というのは、私たちの日常にも潜んでいますから、そこからイメージを広げればいい。しかし、「交通事故フェチ」となると話は別です。

死ぬかも知れないほどの事故の衝撃が性的興奮をもたらす。死と性は隣り合わせですから、それはまあ、理解の範疇です。しかし、事故シーンのビデオをみんなで見て興奮したり、事故現場で舐め回すように被害者の血みどろの顔をビデオで回したり、車のへこみを手でなぞり悦にいる様子は、人間的なものを超越しています。また、クローネンバーグらしい映像美は氷の世界。あまりの冷たさに火傷するような感じ。次から次へと相手を変えて倒錯したセックスにふけるけど、誰も汗をかかない。湿度がないんですよ。濡れてない。また、夫婦が寝室でセックスするシーンが何度か出てきますが、スクリーンの半分、二人の下半身をわざと暗くして映している。これが凄くエロティックなんですよね。これでもかと変態道を堂々と見せきるカメラの力強さにもう目が釘付け。

ジェームズ・スペイダーは面白い俳優。「セックスと嘘とビデオテープ」から7年後の作品ですが、気味悪さは健在。本当は主人公ジェームスが事故フェチの世界に嵌り込んでいくその心情、脚本としては明確に書かれていません。気づいたらずるずるとカリスマ、ヴォーンの相方になっている印象です。ヴォーンの片棒を担いでいる最中も、これと言って事故フェチの世界で何が何でも快感を得たいという意思も見せることはありません。ところが、ラストシーン。妻の車をクラッシュさせた後、「この次はきっと…」という意味深なセリフにはっとします。ジェームスが自分の強い意思を示す最初で最後のセリフではないでしょうか。

「この次はきっと…」一体何でしょう?君を怪我させてあげる?もっとすごい快楽を与えてあげる?それとも殺してあげる?このラストのセリフを考えていると、ジェームスとキャサリンと言う夫婦の関係性を一から検証してみたくなります。冒頭、キャサリンが飛行場で見知らぬ男とセックスするシーンから始まることから、この夫婦は浮気公認であることがわかります。むしろ、第三者を介入させることで性的興奮を得ている。しかし、このセリフから察するにジェームスは、誰の力も借りずに自分とキャサリン、ふたりきりの関係において彼女に快楽を与えてあげられる存在になりたかったのではないか?もしかしたら、キャサリンは不感症だったんだろうか。それを示唆させるセリフは冒頭のやりとりにも感じられます。そうすると、これは妻に究極のエクスタシーを与えようとした男の愛の物語なんでしょうか。事故後に交わる彼らをだんだんカメラが引いていく。その映像は、映画館で感じたバツの悪さと共に何年経っても頭から離れません。
by galarina | 2008-06-05 21:31 | 映画(か行)