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「カーサ・ガラリーナ」にお引っ越ししました


by galarina
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オール・アバウト・マイ・マザー

1999年/スペイン 監督/ペドロ・アルモドバル

「地球上に存在する愛の見本市」
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子から親への愛、親から子への愛、男と女の愛、女同士の愛、男同士の愛…エトセトラ、エトセトラ。そして最終的には「人間愛」までを豊かに描き出す傑作。とにかく、この地球上のありとあらゆる「愛のバリエーション」がこの作品で提示されているのではないでしょうか。そのバリエーションを生み出しているのは、「性」を超えた関係性。これぞ、アルモドバルにしか描けない境地だと思います。ガタイの大きなスペイン人男性が巨乳となって闊歩するようなシーンに惑わされてしまいますが、そういうキワモノ表現の裏に深いメッセージを隠す。このバランスキープ力というのが、アルモドバル監督の凄さでしょう。

一方、本作には「映画内ビデオ」「映画内映画」「映画内舞台」などの劇中劇が多数盛り込まれています。そして、エンドクレジットには、名女優たちに捧ぐのメッセージ。そこには、「演じる女」に対するアルモドバル監督の深い愛が見て取れます。女とは我が人生を演じる生き物。幾多の苦難も演じることで乗り越えてゆく、女性の強靱さとしなやかさを見事に描いています。驚くべきは、作中描かれている映画や舞台がそもそも持ち合わせているモチーフを本来のストーリーと見事にリンクさせていることです。息子を失ったマヌエラが、「欲望という名の電車」におけるステラを演じることで悲しみを乗り越えていくというように。

ですから、構造的には意外と複雑な作品と言えるでしょう。冒頭、臓器コーディネーターのマヌエラが、広報用のビデオに仮想のドナー家族として演技をするくだりがありますが、これも後になってマヌエラの実生活と見事にリンクしていくわけですが、きちんと消化しないとやけにモヤモヤの残るシーンになってしまいます。ゆえに、初見ではこの作品の深みを堪能するのは無理なような気もします。正直、私も初めて観た時は、どぎついシーンの印象が強すぎて、息子を失ったマヌエラの再生物語という軸の部分についていくのが精一杯でした。

とにかく、噛めば噛むほど味の出ると言いましょうか、見る度に新しい発見と感動をもたらしてくれる作品。もちろん、いつものアルモドバルらしい色鮮やかな映像も堪能できます。スペイン好きと致しましては、マヌエラが住むバルセロナのマンションのカラフルなインテリアなど、見ているだけでウキウキします。そして、オカマちゃんアグラードの何と愛らしいこと。様々な作品でトランスジェンダーの方の登場作品を見ていますが、私はこのアグラードが一番好きです。
by galarina | 2008-06-01 01:10 | 映画(あ行)