「カーサ・ガラリーナ」にお引っ越ししました


by galarina
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71フラグメンツ

1994年/オーストリア 監督/ミヒャエル・ハネケ

「世界一周する71フラグメンツ」
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<感情の氷河期三部作 完結編>
「コード・アンノウン」を観て何だかよくわからなかったと言う方は、この作品が良い肩慣らしになるのではないでしょうか。とにかく、ハネケの構築する力にただ驚くばかりです。天才ですね。才能ではなく、天才。私は彼のあまりにも冷徹な客観性とピースを積み上げて壮大な理論を作り出す様から、天文学者のようなイメージを持っています。

本作を観て我が家にあるおもちゃを思い浮かべました。これは、建築をやっている夫が気に入り息子にプレゼントしたもので、「STUDY ROOM」という教育玩具を販売するショップで買った物です。(化石や恐竜の模型なども置いてある店で息子は大好きでしたが、なぜか最近クローズしてしまいました)そのおもちゃの材料は、直径1センチほどの白いゴム製のリングと長さ10センチほどの竹ひごだけ。リングには6箇所の穴が空いてあり、そこに竹ひごを突き刺します。そうして、3つのリングと3本の竹ひごで、基本形となる正三角形を作ります。で、どんどん正三角形を繋げていくと、最終的には大きな球体ができあがるのです。

球体の表側の白いリングと裏側の白いリングは、場所こそ遠くに離れていますが、何本かの竹ひごをルートにしっかりと繋がっています。しかも、そのルートは1方向だけではなく、何方向も存在している。球体なのですから、どんなルートを通ろうと、必ず目的の白いリングが目指せます。しかも、それぞれのリングは各ルートで中継地点としての役割も担っているのです。ここで、ハネケの示す断片は白いリング。観客が断片同士を何とか繋げようと試みるのが、竹ひごを刺していくという作業。そして、最終的にできあがる球体は、地球だと考えてみると、何だか楽しくありませんか。

さて、この初期三部作では、全てラジオニュース及びテレビニュースがとめどなく流されています。それらは文字通り、世界の出来事と「個」の距離感を示し続けているのでしょう。この物語は最終的に登場する人物たちが偶発的に銀行強盗事件に遭遇してしまいます。それは、単純に言えば世界は繋がっているということなのでしょうが、ハネケが示す断片は、さらに別の繋がりを示唆し続けているので、我々のイマジネーションもぐんぐん広がらざるを得ないのです。不法滞在で逮捕される貧しい子供が万引きをするのはディズニーの絵本です。カメラは意図的にドナルド・ダッグの表紙を映していますので、これはアメリカを中心とする消費社会を示しているのでしょう。アメリカを意識しているのは、そこかしこで見受けられ、強盗事件が起きた後のニュースがマイケル・ジャクソンの児童虐待の報道であることからも明らかです。日本の寿司を食べてみたらどんな味だったか、なんてニュースも流れてきます。

このように、銀行強盗事件へと集結するという基本路線はあるものの、断片が内包しているものは別のルートからまた違う断片を我々に想像させ、その作業は観客の意思次第で無限に行うことができると言っても過言ではありません。これはもう、いつまでもしゃぶり続けることのできるキャンディのようなものです。しかも、中にはピンポンのレシーブ練習を延々と続けているというどこに繋げていいか分からない断片すら紛れ込んでいます。だから、観客は最終的に、球体を作れなくてもいいんです。おそらく、それはハネケの頭の中にしかないのでしょうから。でも、どこかで竹ひごを繋げるという作業の面白さが分かったら、きっとあなたもハネケ作品の虜です。観れば観るほど、竹ひごを繋げるのも上手になってくるはずです。
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by galarina | 2008-02-06 23:54 | 映画(さ行)