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「カーサ・ガラリーナ」にお引っ越ししました


by galarina
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眉山

2007年/日本 監督/犬童一心
<TOHOシネマズ二条にて鑑賞>

「自分の親が生きてきた軌跡に思いを馳せる」
眉山_c0076382_1811166.jpg
この作品の見どころは何と言っても終盤、阿波踊りが始まってから。祭りの高揚感と迫力が存分に表現され、人間の「生」の躍動感が画面いっぱいに広がる一連のシーンは実に見応えがある。祭りの勢いとは正反対に、今まさに命の灯火を消さんとする母。うねるような踊り手の波が母と父をはさんで、川のように流れる。その川のど真ん中で迷子のように両親の姿を目で追う娘の咲子。

再会を果たす男と女のドラマティックな盛り上がり、そして3人の親子の関係性を実に映画的な表現で見せる、いちばん印象深いシーン。何よりこの場面の松嶋菜々子のアップが実に美しい。写真のこのシーンですね。正直、それまであまり松嶋菜々子の美しさを感じられなかっただけに、このシーンは彼女にとっても一番の見せ場だっただろう。

さて、設定が非常に似ているため「東京タワー」と比べられることが避けられない本作品。ボクとオカンがべったりな関係なのに対し、やはり母は娘を突き放すもの。父が誰であるかも話さずプライドだけを頼りに生きてきた勝ち気な母と娘の間には「東京タワー」のオカンとボクとはまるで逆の、大きなわだかまりがある。江戸っ子で小粋で負けん気の強い母、龍子を演じるのは宮本信子。気っぷのいい姐さんが実にハマっている。

よく似た映画を見比べて論ずるということ自体は、個人的にはまっとうな映画評ではないのかも…と思うところもあるが、「東京タワー」における親子関係が現代社会を実に如実に切り取ったものであったから、この2作品を付き合わせるというのも、今回はアリかな。私が一番興味深かったのは「東京タワー」は一生懸命オカンがボクを理解しようとする話なのに対して、「眉山」は娘が母を理解しようとする物語だという側面。客観的に考えると「主人公が成長する」のは、後者だろうと思う。

ところが、である。いかんせん主人公に共感できるのはどっちかと聞かれたら断然「東京タワー」なのだ。あのダメ男っぷりに辟易しながらもどうしても寄り添ってしまう自分がいる。「眉山」の咲子は、故郷を離れて1人東京で働くOLである。そろそろいい男いないの、と突っ込まれ、まだ32歳よ!と言い返すバリバリのワーキングウーマンである。私だって、そんな時代はあった。なのに、なのに、松嶋菜々子には独り身の女のもの悲しさがない。父がいないことは彼女の男を見る目に絶対に影を落としているはずなのに、医者の寺澤とやすやすと恋に落ちてしまうあたりもどうも納得できない。松嶋菜々子の演技力、と言われればどうしようもないのだけれど。

「眉山」に話を戻して。子が親を理解する、というのはある程度まではできるだろうが、完全に理解することは無理だろうと思う。しかし、親が死ぬ前に「彼女の(彼の)人生とはいかなるものだったのだろうか」と思いを馳せることは子の義務なのかも知れないとこの作品を見て強く感じた。母、龍子は「夢草会」なる会に入会していた。このエピソードが秀逸。自分の知らない親の顔、親の考えに接し、子はまた親を思い、そして成長するのだ。
by galarina | 2007-06-11 18:02 | 映画(は行)