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「カーサ・ガラリーナ」にお引っ越ししました


by galarina
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愛を乞うひと

1998年/日本 監督/平山秀幸

「愛して欲しいという心の叫びが聞こえる」
愛を乞うひと_c0076382_1525255.jpg
幼い頃に実母に折檻を受け続けた記憶から脱しきれないひとりの中年女性の姿を通し、親子の絆とは何かを問う人間ドラマ。とにかく、凄まじい虐待を続ける鬼母とそのトラウマを抱えた娘、という相反する役をひとりでこなす原田美枝子の演技がすばらしい。

豊子(原田美枝子)は戦後の混乱期を体一つで生き抜いてきた女。心優しい台湾人の陳さん(中井貴一)と出会い、幸福をつかみかけたが、娘ができてからは容赦ない虐待を繰り返す。おそらく、豊子自身も虐待を受けた経験があるか、または不幸な幼少時代を過ごしたのだろう。しかしその詳しくは語られない。ゆえにそのあまりに一方的な虐待の数々を見るにつけ、豊子が本当の鬼のようにすら見えてくる。次から次へと変わる「お父さん」もみな豊子の虐待を見て見ぬふりをし続ける。本当に見ていてつらい。

豊子の娘、照枝(原田美枝子)は、その虐待のトラウマから自分の娘(野波麻帆)と正常な親子関係を築けないでいた。だが、実父の骨を探す旅を通じて、自分自身を再生させ、娘との絆を取り戻そうとするプロセスが丹念に描かれる。

平山作品は、この「丹念さ」が特徴のように感じる。非常にまじめで静かに訴えてくる作風。そして、今作における特徴は敢えて「語らない」部分を作っていることだと思う。それは案外重要なところなんだけど、たぶん敢えて語ってないのだろう。

一つはなぜ豊子がこんなに子供を虐待するのか。お腹にできた時から「これで彼はもう私を愛さなくなる」という台詞があることから、陳さんの愛をひとりじめしたかった、ということくらいは伺える。そして、もう一つは照枝はなぜ現在母子家庭なのかということ。いずれも心のトラウマが原因だろうと思うが、この部分を敢えて明かさずに、豊子に同情の余地を与えず、照枝にも哀れみを与えないようにした離れた目線で描き続ける。それが逆にふたりの関係をリアルに浮きだたせているように感じた。

それから、この作品は音楽をほとんど使わず静かな作品であるのがとてもいい。テーマ曲であるギターの悲しげな音色が時折入るのだが、このタイミングが絶妙でその切ないメロディが映画にぴったり合っている。

大人になってようやく母に別れを告げることができた照枝。そこには、自分の娘との新たな関係を築けるだろうという希望が見て取れる。最後に娘が照枝にかけるひと言に胸が締め付けられる。非常にいいラストシーンです。
by galarina | 2007-04-03 23:02 | 映画(あ行)