「カーサ・ガラリーナ」にお引っ越ししました


by galarina
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緑の光線

1986年/フランス 監督/エリック・ロメール
<5つめの格言:ああ、心という心の燃えるときよ来い>

「泣いてばかりのデルフィーヌ」
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まず、ベネチアで金獅子を撮ったこの作品の特徴は、ロメール監督が無名の女性スタッフ3人と即興的な演出で短時間で撮ったということでしょう。憂鬱なバカンスを過ごすパリジェンヌをとらえたその映像は、まるでドキュメンタリーのような手触り。バカンスにゆく先々で交わされる会話に、脚本はあるんだろうか。セリフがかぶったり、ヘンな間が空いたり、互いにぎこちなかったりするので、ついそんな風に考えてしまう。ただ、このぎくしゃくする会話が見事にそれぞれの、特に主人公デルフィーヌの性格を映し出しています。全編に渡る、この即興演出の妙こそ、他作品にはない本作の味わい。

さて一方、主人公デルフィーヌは、この独特の演出によって、非常に自然体、等身大の女性として映し出されます。そこに、もちろん共感する部分も多いのですが、パリジェンヌという語感からは程遠い、うじうじぶりにちょっと辟易します。バカンスって、フランス人にはそんなに大事なもんなんですね。ひとりは寂しい。それは、わかった。それにしても、です。友人の言葉で泣き出したり、第三者の好意をかたくなに拒んだり。どう見ても、デルフィーヌは極度の情緒不安定。特に、友人が手を差し伸べてくれたシェルブールのバカンス先でのランチの場面。テーブルに並ぶごちそうを目の前にして、私はお肉が食べられないの。獣を殺す行為に思いが及んでしまうから、といったようなことを言った時は、ちょっと唖然。こんなに周囲に気づかいのできない女性では、ボーイフレンドはおろか、友人も離れてしまいかねない。

ロメールは、本シリーズではそれぞれの主人公に、ひとりの大人としてはやや欠落したものを持っている、そんなキャラばかりを選んでいます。そりゃ格言シリーズなんですから、彼らのその欠けたモノを皮肉ったり、諌めたりしているわけです。その中では、このデルフィーヌは最強キャラじゃないでしょうか。ただロメールのいいところは、彼らの人間性そのものを決して否定したりしないところ。やや離れた位置で観察しながら、さりげない方法で彼らの性格を表出させ、いいところも悪いところも見せつつ、それも人間さ、もっと人生は良くなるさ、と締めくくる。そこには説教臭さは微塵も感じられません。そしてまた、それは神の視点というような大それたスタンスでは決してなく、強いて言うならば、敢えて苦言も呈しながら優しく包み込んでくれる親戚の伯父さんと言った感じでしょうか。そんな暖かい雰囲気が作品を包んでいる。そこがロメール作品に惹かれるところです。デルフィーヌという女性はどうしても好きになれないですが、こうした作品のムードに引っ張られ、「緑の光線」は果たして見られるのかという盛り上がりを持ってエンディングを迎えます。
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by galarina | 2008-10-28 23:42 | 映画(ま行)